岐阜県垂井町 ONLINE COLLECTION
作る人のお話
一般社団法人ベトナム人暮らしビジネスサポートセンター/Banh mi Lab (バインミーラボ)
加藤 剛さん

丁寧な対話と美味しいバインミーで
日本とベトナムの「心のつながり」をつくる

製造ラインを手掛けるエンジニアである加藤剛さんが、「ベトナムと日本をつなぐ架け橋になりたい」と2019年に立ち上げた「光響産業 ベトナム人暮らしビジネスサポートセンター」。ベトナム人の妻、リンさんとともに日本企業で働くベトナム人のサポートを行っている。また本格的なベトナムサンドイッチのお店「Banh mi Lab(バインミーラボ)」の活動を開始し、おしゃべりと美味しいものを通じて日本とベトナムの交流の場を生み出している。

日本で働くベトナム人と企業とを
信頼関係で結びたい

日本で働く外国人労働者は年々増加している。その中でも多くを占めるのがベトナム人で、製造や飲食、介護など、様々な業界で貴重な労働力となっている。もはや彼らの存在なしでは私達の生活は成り立たないと言っても過言ではない。しかしながら、必ずしも受け入れ側の対応が十分とはいい難く、不当な扱いや犯罪などに巻き込まれることもあり、祖国を離れて不安を感じながら生活している人も少なくないという。そんな状況を見聞きする度に加藤さんは心を痛めてきた。

「私は仕事で何度もベトナムに行き、以前からベトナムの人の温かさや勤勉さに触れてきました。妻もベトナム人で、義両親も現地にいるので、普通の日本人よりもベトナムに愛着があります。だから、日本に来たベトナム人が辛い思いをしていると聞くと、申し訳ない気持ちになっていました。一方、ベトナム人である妻は、多くの方々のサポートを受けて日本で幸せに暮しており、『何か恩返ししたい』というようになりました。ベトナムと日本の間にいて、それぞれの良さを知っている私たちだからこそやるべきことがあるのではないか、と考えるようになりました」

とはいえ、ベトナムから日本に就業するには、監理団体や登録支援機関を通じて会社と契約する形態のため、何かあっても第三者が調整することは困難。そこで加藤さんは自ら代表となって、2019年に「光響産業 ベトナム人暮らしビジネスサポートセンター」を設立し、2020年に登録支援機関として認定された。今では、支援員となったリンさんとともに特定技能で就業するベトナム人の受入企業へ赴き、雇用・被雇用側の悩みの相談に乗ったり、調整を行なったり、様々な活動を行っている。

「日本側の団体・機関は委託をした会社を“お客様”とし、雇われた人側の問題や不満は取り合わず、泣き寝入りさせることが多いんです。でも、そうしたことが続けば、怒りや不信感まで生み出し、問題の解決はおろか新しい問題を生み出すことにもなりかねません。お互いが信頼し協力し合うことが、お互いの利益にもなる。そのためにはお互いに文化や考え方の違いを理解し、調整することが必要なんです。特に立場が弱い雇われる側の代弁者となりつつ、企業側の思いや期待をわかりやすく伝える。そんな架け橋になりたいと考えています」

労働環境の改善だけでなく、
目指すのは「心のサポート」

ベトナム人側に立ちつつ、日本側の事情も理解する加藤さんたちだからこそできる「架け橋」としての役割。しかし、問題のある監理団体や登録支援機関があっても、制度面の縛りもあって解決できないことも多いという。

「ある日、川辺で泣いていたベトナム人の少女がいたので、話を聞くと『些細なことで罵倒され殴られたけど、解雇されるから抗議はできない』と言うんです。日本で働くために準備や研修費用の名目で年収の5倍以上の借金をしてきているので、そう簡単には国には戻れない。そして契約している会社以外に私たちが介入することは難しい。そうした時に本当に自分たちの力不足を痛感しますし、国の制度に対しても憤りを感じます」

ジャパンドリームを夢見て来た日本で、意欲を持って頑張るベトナム人を守りたい。それができれば、貴重な人材としてしっかりと働いてもらえるだけでなく、会社からの失踪や犯罪への加担など、日本の社会にとってもマイナスになることを防げるはずだ。だからこそ、加藤さんは「心のつながり」が重要なサポートになると語る。

「環境が厳しくても、私たちがそうであるように、親身になって相談に乗ってくれる人がいて、理不尽を一緒に怒ってくれる人がいれば、気を取り直して『明日から頑張ろう』と思える。それも母国語で話せればもっといい。企業に介入すること以外にも、そうしたサポートならもっとできるんじゃないかと考えるようになりました」

日本で暮らす外国人にとっては、労働環境だけでなく、文化や生活面での悩みも大きなストレスとなりかねない。困ったことをすぐに相談できる、愚痴を言えるだけでなく、ワイワイとおしゃべりをして笑って、元気になれる。そうした場として2021年夏にスタートしたのが、リンさんのレシピで作ったバインミーのお店だった。

「いわばベトナムの国民食ともいわれるサンドイッチなんですが、本格的に作れば、ちょっと遠くてもベトナム人が買い来て、ついでに話をしにきてくれるんじゃないかと考えました。さらにベトナム人が働く会社にデリバリーで届けられたら、会社側の話も聞けるし、雰囲気もわかる。正式に『話を聞かせてほしい』だと緊張するけれど、『ちょっとこんなことに困っているんだよね』と気軽に話せるきっかけになればと思っています」

美味しいバインミーが
コミュニケーションのきっかけに

はじめは大垣市のコミュニティスペースで月に1回のイベントごとに出店。徐々に定期的に出店することで地域に認知され、ベトナム人はもちろん、日本人にも多くのファンを獲得するようになった。

「実際、表面はサクサク、中がふわっと柔らかい、独特な食感のバケットに野菜やハム、チキンなどがたっぷり挟まれていて、ハーブがまたいい仕事をしているんですよ。日本風にアレンジはしておらず現地の味を再現しているので、日本人にはどうかなと思ったのですが、ほとんどの方に『こんなに美味しいバインミーははじめて!』といわれます。妻も張り切っていて、仕事でベトナムに行くたびに、必ず現地視察をして新しい味を探すようになりました」

そこで本格的に「Banh mi Lab(バインミーラボ)」の活動を稼働するべく一般社団法人を設立、大垣市のennoie ミドリバシを中心に営業を継続している。 開店以来、 「Banh mi Lab(バインミーラボ)」 は地元でも愛される店として認知され、 月替りのメニュー を楽しみにする固定客も増えつつあるという。

「私たちが支援したベトナム人が、『次は私たちが支援する番だから』と、マルシェイベントの売り子として手伝ってくれるんですよ。そんなふうに、心のつながりが次のつながりを生んでいく。それが本当に嬉しくて、はじめて良かったと思いますね。今後はもっとそうした活動が増えて、日本人とベトナム人が共に協力して生き生きと働き、生活できるコミュニティが増えていくことを期待しています。そのためにも私は事業化や資金調達などの後方支援をしっかり行っていきたいと思っています」

今後はさらに外国人労働者が増え、共に働き、暮らすことが日常になっていくことは間違いない。双方がお互いの文化や考え方を知り、尊重し合うことがますます大切になっていく。その第一歩として、美味しいバインミーを食べにでかけてみてはいかがだろうか。

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