岐阜県垂井町 ONLINE COLLECTION
作る人のお話
Cafe 木工房 結び
黒川 大輔さん

セルフビルドの木工房で創作に励む。
モノづくりで”時代をつなぐ場”を創りたい

もとは定時制工業高校の先生で、以前から手仕事が得意だったという黒川さん。ある日、日曜大工でテーブルを作ったことをきっかけに木工の面白さに目覚め、腕を磨くうちに、いつしか作品が評判を呼ぶように。現在は、垂井町の池田山のふもとに工房と展示室兼カフェを開き、”一生の仕事”として木工に取り組みながら、地元材を使ったモノづくりワークショップなども精力的に行っている。

木のぬくもりがやさしい、
手づくりの家具や食器が人気

垂井町の山里、ゆるやかな坂を少し上がると木造の建物が何棟か見えてくる。木材に囲まれた黒川さんのアトリエ「木工房 結」、向かいに妻の永世子さんが週末に営業する「Cafe 結」、そして、建築中の建物は次女でパティシエの結子さんの菓子工房になる予定だ。カフェの木の扉を開くと、清々しい木の香りに包まれ、無垢材のテーブルやペーパーコードチェアなどがゆったりと置かれている。大きな窓からはやわらかな光が差し込み、垂井の緑豊かな風景が見渡せる。

「ぜひ、好きな椅子に座ってみてください。カフェに置かれている椅子やテーブルは、すべて『木工房 結』で私が作ったものなんです。ここは展示室でもあるので、いろんなデザインをおいているんですよ。私は自分のブランドはもたず、販売は個人作品展かセレクトショップ、またはオーダーのみ。基本的には依頼されたら何でもつくります。ここから見える木の部分はほとんど私がつくりました」

なんと家具だけでなく棚や什器、さらにはカフェや工房の建物も、黒川さんが手づくりというから驚きだ。現在は、無垢材を中心に自然素材にこだわり、椅子やテーブルなどの家具、食器などの生活用品などを制作している。いずれもシンプルで木のぬくもりが感じられ、日常に馴染むさりげなさがちょうどいい。カフェにある座面にペーパーコードを使った椅子も、デザインの美しさだけでなく、座ったときのフィット感や片手で持てる軽さなど、実用性にも優れている。そんな作品のなかでも、黒川さんが最近、特に力をいれているのが、シェーカーボックスだ。

ミニマムな自給自足の暮らしを好むシェーカー教徒が生み出したシンプルな収納具で、中でもオーバル型は今も根強い人気があります。お客様からご依頼があって作ったのですが、満足いくものができるまで5年かかりましたね。曲げわっぱのように、薄い板をお湯で柔らかくして曲げていくんですが、きっちりと隙間をなくすのが難しい。でも、すごくおもしろくて楽しい経験でした。今も数ヶ月ごとに百貨店やセレクトショップからオーダーがきて、あるギャラリーさんにはOEMで提供しています。最近は海外からの引き合いも多いんですよ。

ほしいと言ってくれる人がいて、そのニーズにしっかり向き合うことでステキなモノが生まれ、黒川さん自身のオリジナリティにもなっていく。その積み重ねによって顧客は着々と増え、店舗では常に品薄状態が続き、オーダーは数ヶ月待ち。しかし、黒川さんにとっては「売れること」が最終目標ではないという。

仕事として継続するにはモノを作って売れることが必要ですが、最終的には垂井町に仕事をつくる、人が集まる場を創造し、人と人とをつなぐ手伝いをしていきたい。様々な世代や価値観が融合し、「時代をつなぐ」イメージといえばいいでしょうか。工房とカフェの名前にある「結(むすび)」も、そんな思いが込められているんです。

木工房とカフェをセルフビルドし、
木工職人として独立

黒川さん自身、自分らしく生きようと模索する中での「人との出会い」が背中を押し、人生における決断を促してくれたと語る。とりわけ最大のターニングポイントで出会ったのが、家造りの師匠ともいえる大工の棟梁の清水陽介さんだ。あるクラフト展で出会い、清水さんから”セルフビルド(自分の手で家を建てること)”の話を聞き、漠然と憧れていた自分の工房に手が届くことを知った。

定時制高校の教員をしていた30歳の時に、自宅用にとテーブルをつくって面白さに目覚めたのが木工との出会いです。以降、趣味として続け、家具職人にも弟子入りしましたが、木工を一生の仕事にするには工房を建てるお金も必要だし、まだ先だと思っていました。でも、40歳の時に清水さんに出会い、「自分で工房を建てられるんだ」と気づいて、一気に道が開けたように感じたんです。ちょうど借りていた小屋の敷地一帯を購入しないかという地主さんからの依頼もあり、これはもう「今しかない」と思いましたね。

午後は教員の仕事、昼までは滋賀にある清水さんの会社で指導を受けながら、刻み作業(木材などの加工)を行った。様々な人の協力を得ながらコツコツと造り上げ、約6ヶ月間をかけて工房とカフェを完成させた。2010年にオープンしたときは、まだ教員と木工職人の二刀流。二人の娘が独立したのを見届け、教員を早期退職して木工の仕事に専念するようになったのは7年前だ。

妄想みたいなものはずっとあって、漠然としたまま少しずつ形にしてきたというところでしょうか。事業なら計画を立てて進める必要があるけれど、自分のペースでいいのは個人事業主の強みです。カフェも最初は展示場のつもりだったけど、妻はお菓子づくりが好きだし、周りからも「やってみては」と勧められ、2013年から週末だけ営業するようになりました。「無理なく続けていこう」というのが、私たちの合言葉。でも木工の方は注文を受けられないことも増えてきたので、そろそろ人の育成や組織の運営を考えつつあります。

モノづくりを通じて、
垂井町に人と人が出会う場を創る

あくまでマイペースでのんびり、そんな黒川さんがつくった場には様々な人が訪れ、自然発生的に新しい営みが生まれている。手編みカゴショップ「moliy」の代表である池宮聖実さんもその一人。知人を介して知った「結」の温かさに惹かれ、敷地内にお店を構えることになった。現在も家具を購入したお客さんが「自分も作ってみたい」とアシスタントとして工房に通っているという。

もともとカフェの塗り壁やたたきの部分は、SNSでワークショップを呼びかけて参加者と一緒に作ったんです。それ以降も、ピザ窯を作ったり、小屋を建てたり、木工家具を組み立てたり…、ライフスタイルを提案するワークショップをけっこう頻繁に開催しています。コツコツとモノを作るのも好きだけど、誰かと一緒に楽しむのも好き。人と人とが出会う場を創る、それも含めて私の夢だったんです。コロナ禍でちょっとお休みしていましたが、少しずつ再開しています。

垂井町ブランドとしての「お弁当箱」の開発にも取り組んでいる。近場の山々で切り出された杉の間伐材などを使い、普段づかいできるようなシンプルで丈夫なデザインとしている。さらに商品として企画・制作するだけでなく、木工の面白さや垂井町の材に触れてもらうために特別講義を行ったり、お弁当箱をつくるワークショップを行ったりしている。

今後の世界的にも外材の入手が難しくなると予想され、一方で国内には手入れされず荒れた森が多いんです。その実情を知り、何ができるのかを考える機会になればと思っています。自然豊かな垂井町で、身近な環境について、みんなで楽しみながらモノづくりを楽しんで、この土地とモノに愛着を持ってもらえたら嬉しいですね。

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