視野を広げ、主体的に学ぶ楽しさを伝えたい!
「生きていく力」を育む学童教室を運営
「子どもたちが自ら考え、決断できる環境を提供したい」の思いのもと、2022年秋に開設した学童教室「HARU kids club」。代表を務める岩田さんは医院に勤務する内科医であり、3児の母でもある。2018年夏に夫の郷里である垂井町に移住し、以前から切望していた「生きていく力を育む学童教室」を実現させた。後押しとなったのは、垂井の豊かな自然と地域の人々との出会いだった。
豊かな自然と人のつながりの中で、
「生きる力」を育む場をつくる
「学校が終わった後、子どもたちが”いい時間”を過ごせるような居場所をつくりたい」ーーそれがHARU kids clubを立ち上げた理由です。放課後は、学校でも家庭でもできない経験ができる時間。「時間を潰す」のではなく、遊びや学びを通じて将来の基礎となる”生きていく力”を育む場があればと考えていました。夫の郷里である垂井町は、自然が豊かで人のつながりを感じられる町。子育てに最適で、思いを形にするチャンスだと思ったんです
岩田さんは夫婦ともに医師として勤務し、3児を育てる親としても多忙を極める。垂井に移住するまでは国内外で拠点を移しながら、民間の学童に子どもたちを預けて長時間働き、離れて過ごす時間が多かった。その分、教育の質も気になり、「自分の子どもを預けたくなるような学童教室をつくりたい」という思いは、人一倍強かったという。
垂井に移住すると決めた時は、3番めの子が生まれたばかりでした。「自分の子どもが小さいうちに実現させなくては!」と発起し、大急ぎで準備を進めました。かつて住んでいた東京やアメリカでは”いい学童”を探しまくっていて、教育の質は熱意とコストに比例するという確信も得ていました。リサーチとイメージはしっかりしていたので、ビジネスモデルなどの構想はすんなりとできました
とはいえ、岩田さんにとって垂井は未知の町。「地域の方々に受け入れてもらえるか不安だった」というが、すぐに杞憂だったことがわかる。毎朝のランニングなどをきっかけに、様々な「出会うべき人々」と知り合い、思いを話すうちにアイデアを膨らますことができた。そして、カフェスペースなどでのトライアルを経て、2022年の秋にHARU kids clubを開所。たくさんの方がお祝いに駆け付けてくれたという。実は建物の2階で英語教室を開く、米国人のローレンスさんも、移住直後に英語カフェで知り合った友人第一号だ。
人がつながりやすいのが垂井のすごいところでしょうか。たとえば、東京では「すごい人」は多くても、なかなか出会えないですよね。でも、垂井なら人を介してトントンとつながって、講師まで引き受けてくれる。役場の方からアカデミーを紹介され、そこで出会った方々も大きな財産になりました。町がほどよい大きさなのか、元宿場町ならではの気質なのか…?、なぜなんでしょうね(笑)。人のつながりが温かくて面倒見がいいのに閉鎖的ではないというのも、この町の魅力だと思います
「いい学びとは?」の問いのもと、先進的な教育、
食育、地域交流などを実践
HARU kids clubは二部構成になっており、「フリータイム」では宿題や読書の他、外で遊んだり、畑の手入れをしたり、子ども自身が「やりたいこと」と時間の使い方を考える。「プロジェクト」ではサマーフェスティバルやクリスマスマーケットなど、時節やテーマに応じてプログラム内容が週ごとに変わり、協力してグループワークを行う。いずれも参加は自由意思で、自然と子どもたちの自主性を引き出す工夫がなされている。
学校では実現できない先進的な学びに挑戦したいと思い、「グローバル コミュニケーターの育成」を掲げる大垣市の「MIC(Milly’s Institution of Communication)」の監修を受けて、モノづくりや国際交流、イベント企画、職業体験など多彩な学習プログラムをオリジナルで開発しています。また、豊かな自然環境を活かしてフィールドワークを行ったり、土日には他の事業者と一緒にイベントを開催したりすることもあります。常に「いい学びとは何か」を考えながら、いろんなことにチャレンジしたいですね
そして、学びや遊びと同じように、岩田さんが大切にしているのが「食べること」だ。内科医として治療とともに栄養指導も行ってきた経験から、「子どもたちを取り巻く食」への課題感を持ち、楽しく・おいしく・栄養知識も得られる食育として”おやつ”を位置づけている。岩田さんが栄養学に基づいて選んだおやつは、併設のキッチンで手作りされ、子どもたちは「タイミングや量を考えて食べること」を学ぶ。それは一生の財産にもなるだろう。
食育を実践している学童はそう多くはないでしょう。民間だけに自由度は強みだと思っています。利用についても、保護者が働いてなくても、週1回でも毎日でもいいし、塾代わりや遊びに来ているという子もいて、住んでいる地域や学校も様々。もちろんHARU kids clubの考え方に共感しているというのが前提ですが、いろんな子がいて、いろんな親がいます。子どもが”違い”を面白がって、多様であることに馴染んでくれればいいなと。ごった煮的な面白さも魅力と思っています。
そうした多様性を大切にする考え方もあって、併設のカフェスペースは時間によって一般客にも開放されている。2階の英語教室の講師と生徒が英語でおしゃべりしていたり、近所の農家の方が野菜を届けに来たついでに一服したり、地域の交流の場として子どもたちにもいい刺激となっているのは間違いないだろう。提供メニューも、焼き菓子やコーヒー、パンなどの他、夏休みには子どもたちが企画した「お弁当」が販売され、好評を博した。ついには施設を出て、子どもたちがチラシを持って役場に営業しにいったという。
サマースクール挑戦に手応え。
大人だって夢を追い続けていたい
次々とアイデアを形にしている岩田さんだが、特に夏休みの「サマースクール」は1年目のチャレンジとして印象深かったと語る。お盆期間を除く平日、毎日テーマが異なる講座が開催され、出入り自由ながら、ほとんどの子どもが終日集中して取り組んだという。
どれもほぼ満員ながら、特に人気はサイエンス講座やサバイバル体験でしょうか。お弁当開発の企画も反応がよかったですね。サマースクールは学童教室の利用者でなくても参加できるので、いろんな子どもたちが来てくれて、これをきっかけに学童に入ってくれた方も多いです。内容的にも事業的にも大きな手応えを感じました。
今後も着々と学童教室やサマースクールを充実させることを前提としながら、岩田さんが新たに考えるのは、日中の時間を利用したフリースクールなどの教育サービスだ。学校教育にも多様性が求められる中、ニーズが高まっていることは間違いない。またスタッフとして働く、保育士や教師、栄養士などの専門性をもっと広く提供したいという思いもある。
スタッフや地域の方々と話をしていると、構想やアイデアがどんどん浮かんできます。英語教室のローレンスさんとも、子どもたちの交換留学を実現させたいと盛り上がりました。広い視野を持って大きく広がるというのは、実はHARU kids clubに込めた「悠(はるか)」のイメージそのもの。子どもたちにそうなってほしいと思うと同時に、大人も夢を追い続けていたいですよね。
岩田さん自身、かつて思い描いていた夢が垂井で実現できたことで、「何でもできる気がする」と語る。人とのつながりの中で、新しいアイデアが生まれて実現する。岩田さんの笑顔を中心に、さらにポジティブなスパイラルが生まれつつあるようだ。